コラム 忘れえぬ旅

  貧乏卒業旅行 1998.3

 

 第一日目

大学卒業を間近に控えた三月上旬の深夜。私は東京駅のホームで、安旅定番の快速列車「ながら」を待っていた。

リュックの中は、近所のマツキヨで買い込んだ大量のカロリーメイトと着替え、時刻表という簡素な装備。手には、青春十八切符と分刻みのスケジュール表。一見して、こいつは金がない、そんな負のオーラが醸し出されている。

今回の旅の目的は、手薄である西日本のKHを増やすこと。そのためには、食費、宿泊費は最低限に抑え、限られた予算と日程で観光地を効率的に回り、最大限のKHを収集せねばならない。

第一の目的地は彦根

到着までは約八時間ほどある、今のうちに休養をとっておかねば。何せ若いとは言っても体には相当負担のかかる貧乏旅行なのだから。

彦根に着くと、祝杯代わりのユンケルを一気飲み。朝食はもちろん買いだめしてあるカロリーメイト。

基本的に駅から目的地までは歩き、バス代も馬鹿にならない。朝早いせいか、玄宮園、彦根城はまだほとんど人がいない、当然土産屋もまだ。

記念撮影を頼むのも一苦労。掃除のおばちゃんと話し込んでいると、土産屋が開き一目散にかけこみKHをゲット。

次は琵琶湖だ。

さっきから気になっていたのだが、空模様が怪しい。軽装化のため傘は持参していない。

大津駅に着くと同時に大粒の雨が。大津港までダッシュし、ミシガン号のKHゲット。

雨しぶきでろくに琵琶湖の観光できないうちに、また駅までダッシュ。傘を買えよと突っ込みたくなるが、金もかかるし荷物もかさむ。

 雨宿りで駅ビルの土産屋を見ていると、お気に入りデザインのKHをみつけ追加購入。

一つの観光地での滞在時間は移動時間を含め一時間。 その間に観光と買い物を済ますのだから、相当忙しい。いい旅夢気分ファンなどからすればほんと邪道旅って感じ。

 神戸に着いても雨やまず、ついに折り畳み傘を購入。この傘十年以上たった今でも使っている。

 異人館めぐりをしていると、激安セールをしている怪しげな宝石屋に入れられる。 よくわからんが、二千円のネックレスを母と妹の土産に買った。しかし、神戸の土産屋では気に入ったKHがなかなか見つからず苦戦。

 これが尾を引いてか、次の姫路でも意外にお土産KHが充実しておらず大苦戦。それぞれ一個ずつしか買えず。

 赤穂に着いてもずうっと雨が降っている。おまけに日も落ちてきた。

 いきなり駅の売店でグッドデザインのKHをゲットし、城址の土産屋のKHコーナーもそこそこ充実している。本日の観光はここまで、宿泊地である琴平へ。

 すっかり暗くなり人生初の四国入りも瀬戸内海は拝めず。琴平に着いたのは夜の八時過ぎ。

 夜食のみ外食というプランなので、定食屋を探すが、時間も時間で空いていない。ようやく場末の定食屋に入り、親子丼を注文。何十時間ぶりに口にする動物性蛋白質をかみしめる。

宿泊先は琴平YH。ドリフの幽霊コントに出てくるようなお化け屋敷みたいな雰囲気だな。他の宿泊客は髪染めたヤンキー見たいなやつだし。金取られるんじゃないかと思って財布を抱きしめてベットイン。

初日が一番移動距離が長く、観光場所も多いハードスケジュールであった。

 

第二日目。

朝一番で琴平参り。昨日とはうって変わり快晴だ。

土産屋でただで荷物を預かってくれるというので、預けたのだがこれがトラブルの元。帰り際、預け賃代わりにKHでも買ってやるかと、レジにもっていくと、一個六百円。三五〇円位のやつが。

ほとんどぼったくりにあったような憮然とした気分で多度津のゴールドタワーへ。愛媛も含め瀬戸大橋などのKH一大コーナーが目を引く。展望コーナーではこの旅初の記念メダル販売機発見。

瀬戸大橋を北上し岡山入り。

後楽園入口でも記念メダルKHをゲットするも、普通のKHが見つからない。岡山城内で桃柄入りとガラスコーティングのいかしたKHをゲットし機嫌は上々。

次の目的地・尾道までしばらく時間がかかるので、車中はひたすら昼寝。本は荷物が重くなるので、娯楽らしいものはない。風景を眺めるのに飽きたら後は寝るしかないのだ。

今まで買い貯めたKHを鑑賞したいところだが、電車の中でそんなことしてたらちょっとした変質者じゃないか。

尾道ではロープウェイには乗らず、麓の駅までの土産屋を物色。しかし、みつからない、見当たらないのだ。大観光地であるのに、お土産KHがほとんどない。

最近はこの類の現象がままある。この旅初の肩透かしか?時間ばかりが過ぎ焦りだしたところで、ようやく新装開店の土産屋で二種類のKHを発見。胸をなでおろしレジを済ませていると、新装の記念に尾道の風景入りのこじゃれた灰皿まで頂いた、ラッキー。

これはヘヴィスモーカーの父への土産となり、実家ではまだ使われている。

次が今日の山場・広島城。なぜなら到着が閉場の五時ぎりぎりとなるからだ。

広島駅に着くと、早足で目的地へ急ぐ。駅から約二十分、結構きつい。時計はすでに五時を回っている。着くとすぐにだめだと分かった、人がいないのだ。

「シャシントッテモラエマスカ?」

気落ちしている私に金髪美人が話しかけてきた。 私もお返しに撮ってもらったのだが、オーマイゴッド!後日現像したら肝心の城がほとんど写ってない、どこで撮ったんだかよく分からない。

 失意の中、駅の売店で辛うじて広島城のKHを発見。本来は、KHは現地調達が原則だが、今回は緊急避難的にOKということにしよう、と自分で勝手に納得。

 本日の宿泊先は宮島YH。この日は満室で風呂が込み合うというので、宿についてすぐに風呂に入る。

 入浴後、駅中の立ち食いそばで夕食、贅沢にもかけそばにゆで卵とおにぎりをつける。満腹感を増すためかなりよく噛み、時間をかけて胃に流し込む。

 腹ごしらえがてら、駅前通の土産屋を流すと、さすが日本三景、どの土産屋でもKHは豊富に揃っている。まだ観光したわけではないが、いくつか買っておく。 明日の出発は早いのでKHが買えるとは限らない、買えるときに買うが原則だ、保険の意味もある。

 明日は五時おきなので早めの就寝。おっと、忘れちゃいけない、寝る前のKHチェック。二日で計二十六個。いい感じで重くなってきている、時間をかけて堪能する。マニアにとってはまったくもって至福のときである。

 

第三日目

 始発の宮島フェリーでいざ厳島神社へ。5時台ということでさすがに乗客は私ともう一組だけ。

 こんなに朝早くても厳島神社はやっている(日の出から)すがすがしい気分でKH探しを始めるも、この時間にやっている土産屋はない。やはり昨日のうちに買っておいて正解だった。

 神社の売店はやっていて、お守りなどと一緒にプレート式KHが売っている。御利益もののせいか千円とかなり高めだが、旅の安全祈願も兼ねて購入。

 記念撮影を早々と済ませ、山口の秋芳洞を目指す。何せ今日は日本海側までぐるりと回りこむ大移動日である。スケジュールの遅延は許されない。

 小郡で秋芳洞行きのバスに乗り換える際、若干時間に余裕があるので駅の売店をのぞいてみると、こじんまりとしたKHコーナーを発見。

SL山口号や湯元温泉など渋いタイトルが10個ほど並ぶ。せっかくなのでルート外のものをいくつかチョイス。

 それにしてもバスが空いている。ちょっと行儀が悪いが、足を伸ばして二人分の席を独り占め。

 バス乗り場から秋芳洞の入口までは、ずらりと土産屋が軒を連ねる。とりあえず今はスルーして観光に徹する。なぜなら鍾乳洞は前からずっと観たいと思っていた憧れの場所なのだ。

 予想以上の迫力に満足し、そのまま秋吉台まで上る、ここでKH選び。秋吉台のタイトルも欲しいのだが、秋芳洞のものばかり。

 諦めてバス亭に引き返すと、あるミスに気づいた。バスの時間を一時間早く組み入れていた、このミスは痛い。次なる目的地・の観光ができない。おまけに待ち時間で鉱石のすくい取りなんて無駄遣いまでしてしまった。

 そういうわけで萩は、車窓からのみの観光で、駅前の土産屋でKHを購入。ここから一気に四時間かけて出雲まで北上する。

 日本海を眺めながら、一野畑電鉄出雲駅に着いたのは八時過ぎ。これぞローカル線の極み、レトロな駅舎にタイムスリップしたかのような錯覚を覚える。

 本日の寝床・出雲YHも大勢の客で賑わっている。やっとの思いで風呂の順番を確保し、魅惑のKH鑑賞タイムへ。

 今日の獲とく数は十個、計三十六個、見ごたえ十分だが、さすがに相当重くなってきた。このままでは、私の安リュックが破れてしまう。途中でお別れするのは寂しいが、明日先に宅急便で送るしかあるまい。

 

第四日目

 出雲大社でKHを買った後、当初の予定通り今までの土産を一括して発送。いやあ、荷物は軽くなったけど、この一抹の寂しさがやるせない。

 松江から再びKH集めの旅リスタート。

 駅から松江城までは歩いて二十分ほど、途中めぼしい土産屋がなく、場内の売店でKH探し。宍道湖のKHが欲しかったのだが、店員さんに聞いても「見たことないねえ」とのこと。

 仕方なく城型KHのみ購入し、駅まで戻り、駅ビルの土産屋で小泉八雲の夜光塗料KHをゲット。

 その後、JRで鳥取砂丘に向かう途中、米子で乗り換える。三十分ほど次の電車まであるので、早速土産屋チェック。

 漫画家・水木しげるの出身地・境港が近いということで、鬼太郎グッズが一大コーナーを陣取っている。鬼太郎ファンの私としても、これは見逃せない、くるくる漫画のギミックKHと皆生温泉のKHをついつい購入してしまう。 予定外の出費が重なり、いざというときの予備費は減っていく一方である。

 駅から鳥取砂丘までは遠いのでバスを利用。

 砂丘リフトのふもとには土産屋が集まり、いやでも期待が高まろうというもの。が、KHのラインナップはいまいち乏しい。

 時期によっては、デザインの変更などで商品入れ替えのエアポケットが生じてしまう場合がある。今回はたまたまその期間に当たってしまったようだ。

 鳥取から、本日の宿泊地・天橋立へ。

 近畿タンゴ鉄道を乗り継ぎ天橋立駅に着いたのは八時過ぎ。あまりにお腹が空きすぎて、キヨスクでゆで卵を買ってしまった。

YHまではかなり遠いので、ご主人が車で迎えに来てくれる段取り、送迎つきとはえらく気がきいてる。

YHは割りと空いていて、談話室でテレビを見ながらくつろいでいると、他のお客さんが話かけてきて旅談義に花を咲かせる。私もKHについて熱く語ったのだが、興味もなければさぞ戸惑ったことだろう。

 

第五日目

 帰りは送迎がないため、ユースホステルから天橋立までてくてく歩き、文殊堂までさらに踏破。しかしながら、若さって素晴らしい、休憩なしで一時間以上歩いたって何てことないのだから。

 本日は、ここから宇治まで南下し京都入り。

 平等院裏の土産屋で、一昔前のレトロなKHのワゴンセールをやっていた。一個百円という激安だが、掘り出し物もいくつかあった。

 その後、大阪城通天閣とせわしなくまわり、真鍮KHだけではなく、本物と見まがうほどのたこやきKHとお好み焼きKH、それから東京でもおなじみのかに道楽KHなどマスコット系のKHを多く手に入れることができた。

 真鍮にこだわる私の心さえ動かした大阪系KHには洒落の利いた底知れぬ独特の魅力が宿っているのである。

そして、以前から気になっていた阪急大阪駅へ。この駅の地下街には、各都道府県の土産屋ブースが集まった大土産屋街が形成されており、何とここに行けばわざわざ旅行に行かずとも全国のお土産KHが揃ってしまうなどという禁断の噂を耳にしていたのだ。

 もしこの話が真実であれば、KH集めの旅の意義が半分以上失われてしまうことになる。果たして真相は?

 足を棒にして歩き回ったが、お土産提灯を売っているところは数箇所あったものの、KHを売っているブースは確認できなかった。

 ほっと一安心して、本日の宿泊地・東山ユースホステルへ。その前に京都タワーでちょっと道草、展望台で記念メダルKHをゲット。

 地下鉄代をケチってYHまで歩いたら一時間近くもかかり、おなかぺこぺこで死にそう。今夜は夕飯込みなので、ここぞとばかりに茶碗五杯を食べてやった。

 ここ二日で集まったKHは二十二個。いつものようにベッドの上でKHを丹念に鑑賞していると、隣の学生が不思議そうな顔で覗いている。私は枕元に慌てて隠し寝たふりをした。

 

第六日目

 昨日は風呂に入れなかったので、朝一番で浴室へ直行。自分以外全て外国人という妙な空気に・・・。さすが国際観光都市京都、YHにもかなりの外人が泊まっている様子。

レンタサイクルを予約しておいたので、早速東山地区を散策。銀閣寺二条城知恩院などを順調にまわり、清水寺の二寧坂土産屋通りへ。

ここは、高校の修学旅行のとき、地図KHが四十七都道府県全て揃って売っているのを見かけていたので、2セット買うつもりで予算を組んでいた。

なぜ二セットかというと、一つはコレクション用、一つはホルダーと分けて一つの日本地図に合体させて額縁に入れて飾る用だ。

地図KHは時期や場所によって色合いが微妙に違ってくるので、きれいな日本地図を作ろうと思うのであれば、反則ではあるが一括で購入するしかない。

というわけで、楽しみ勇んでその土産屋を再訪問したわけだが、念願かなわず、地図KHコーナーはなくなっていた。

 午前中いっぱいで京都を切り上げ、法隆寺へ。修学旅行の本場だけあってKHコーナーはまだまだ健在だ。

小手先のテクニックではあるが、リストのタイトルを増やすため夢殿や五重塔の建物ごとのKHを購入し、宿泊先の高野山へ向かう。

 高野山は、ケーブルカーやバスなど本数が限られているためシビアな時間調整が求められる。ケーブルカーの駅からバス停までの乗り換え時間はわずか二分、少しでも迷ったらアウトだ。

YH近くの小さな雑貨屋で夕食のカップラーメンを買うと、雨がぱらついてきた。

高野山YHは今までのYHと違い、まさに宿坊そのもの、値段も若干高め、明日の朝食何が出るか楽しみ。

 

第七日目

 楽しみにしていた朝食は、期待通りの精進料理風、おかわり自由。胡麻豆腐を食べるのは初めて、一口で気に入り、家族の土産でも買って帰ったのだが、結局ほとんど自分で食べてしまった。

雨は相変わらずしとしとと降り続き、またもや神戸で買った傘が大活躍。和歌山を出たときには、雨はすっかり止み、忍者のふるさと・伊賀上野へ。

平日のせいか観光客はまばらで、からくり屋敷の忍者ショーをひとりで見る羽目に。役者さんたちもさぞやりにくかったことだろう。

伊賀上野城を見終わった頃には、再び雨が・・・まるで雨雲が私についてまわってきているよう。

この旅最後の宿泊先は松阪のYH。

駅に着いて早々、改札口近くのキヨスクでかっこいい近鉄特急の二段式切符KHをゲット。

中心街では何やら祭りをやっていて、歩行者天国で出店がたくさん並んでいる。雨が降っていなければもっともっと賑やかだろうに。

祭りに気をとられているうちに、YHへの道が分からなくなってしまうが、通りすがりの交番で調べてもらい何とか愛宕YHに到着。

もともとはお寺だったそうで、外観は確かにお寺そのもの、客室もどこかひなびた感じで気に入った。

本日の宿泊客は自分だけということで、ベッドも風呂も使い放題、久々にプライバシーある生活を満喫。コ

もちろんKH鑑賞も誰に気兼ねすることなく心行くまで楽しめる。長旅最後の夜はKHとともに。

 

第八日目

  松阪市内をくまなく歩き回り、KHを探索するも成果なし。かろうじて駅前の土産屋に木製の鈴型KH(松阪出身の国学者・本居宣長の鈴屋にちなんだもの)を発見し、本意ならず購入。

 そして最後の目的地・伊勢神宮へ。

 天気は回復し、絶好の参拝日和、KH探しにも熱が入る。どうかよいKHとめぐりあえますように、そうお伊勢様に願掛けしたかいあってか、なかなかの傑作をゲット。

 JRに乗り換えのため近鉄で名古屋まで出て、この旅ではまだ一度も食べていなかった駅弁選び。思いっきり豪勢にデラックス味噌カツ丼を注文。電車の中で肉汁あふれる濃厚なカツと思い出をかみ締める。

 さあ、下宿には第一陣のKHたちが一足先に到着して待っている。この度のKH集めの旅でゲットしたKH総数約九十個。全て並べたらどんなに壮観な眺めとなることだろう、恍惚とした思いで帰路に着く私であった。

  

 今にして思えば大学のときほど、時間を自由に使えたときはない。自転車や路線バスで日本一周なんて面白企画をやらなかったことが口惜しい。

 逆に社会人となった現在は、金はあるのに休みがないというジレンマに陥っている。所帯を持ち小さい子供を抱えてはなおさらである。

 願はくば、わが息子たちが早く大きくなって、一緒に自転車で日本一周を成し遂げたいものである。

 

 

 

 

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